犬とのよりそイズム

分離不安を考える

分離不安 具体的な行動

 分離不安、という言葉を知っている飼い主さんは意外と多いのに驚きます。初めてこの言葉を聞いたときには、なるほどそういうものがあるのか!と思ったのですが、レッスンでお宅へ伺っているうちに、「ちょっとまてよ?」ということを感じるようになりました。 

 分離不安とはなにか?どんな行動を言っているのか調べてみると 飼い主と離れたときに 

・過剰に吠える 

・不適切な排泄 

・破壊行動 

うちの犬はストーカー!?

 こうした行動があるときに、分離不安である、と判断されるようです。家の中で飼い主さんについて歩くことも、分離不安の傾向がある、としているところもありますが、「なるほど、原因はこれだな!」と思うところがあります。

 レッスンで飼い主さんとお会いすると

「うちの子は私に、ストーカーのようについてまわります」

と、困った顔で言う方が少なくないのです。これに対して私は

「気になる、好奇心、あるいは好きでくっついて歩いているだけで、何か問題ありますか?」

と聞くのですが、答えのほとんどが

「困っていない」

です。ではなぜ、あえてそれを話題に出すのかというと、どうやら雑誌やネットの情報で、「飼い主についてまわる子は分離不安」といわれているからのようです。ちょっとくらいついてまわるのは、普通のことだと、私は感じていますので、そのままお伝えすると、ほとんどの飼い主さんが納得してくれます。

過剰な行動がある場合には要注意

 問題なのは、不安の度合いが異常な状態までになっている場合です。ひどくなると、怪我をするまで破壊行動をする、自傷行為をするなどのレベルになってきます。そうなると対処しなければならないのですが、どう対処するかも、いろいろな方法があって、飼い主さんはいろんな方法を試してみる、結果犬はさらに混乱し、状態は悪化する、ということも現場では起きています。

 最近の例ですが、保護された犬で、言葉は悪いですが、たらい回しの状態にさえたのち、やっと本当の家族になってくださる方に迎えられときには、留守番ができなくなっていました。最初は、飼い主さんが引っ越すために、実家に預けられていたとき、ご両親がずっとそばにいてくれたことが原因で分離不安になった、と飼い主さんは考えていらして、その話を聞いたときには、私もそうなのだろうと推測したのですが、犬の様子やお話をじっくり、時系列で聞いているとなにやら違和感を感じました。

ネットの情報で簡単に解決できる?

 ネットの情報で得た方法をやってみたそうなのですが、状態はどう考えても悪化しているということでした。その方法とは、短い留守番からだんだん長く、ということで、外出の支度をして外へ出る、不安を感じて吠え出す前に戻るか、吠え止んだら家に入る、ということを繰り返しながら、だんだん時間を長くしていく、という根気がいる作業です。行動学の理屈的にはなんら問題なさそうな方法なのですが、実際やってみたら、外出の支度をする段階からソワソワしてしまうようになり、さらには外出しようかな、という気配でソワソワしだすようになってしまったということ。

 聞けば家の中でも、お風呂に入っているときや、別の部屋に行こうとするときも、異常なくらい反応して不安がる様子があるのだそうです。そこで私が感じたのは、「もっと安心させてやらなくてはダメだ」ということでした。保護された環境から、その子が生まれてから子犬の時代に、心身ともに愛情で満たされていたとは考え難い状況でした。

ベーシックトラスト・基本的信頼

 そこで思いついたのがベーシックトラストです。 ハーローのアカゲザルの実験で有名ですが、ベーシックトラスト、基本的信頼は、人間も動物も、心の安心、安定を得るために必要なことです。

 ベーシックトラストは、発達段階の初期、乳児期に母親(または母親に当たる養育者)に十分な愛情と養育を受け、母親に対して完全な信頼感を持てた場合に形成がスタートする。 とあります。飼い主さんが離れても不安を感じない、戻ってくると理解できるだめには、このベーシックトラストが必要なのではないかと、私は考えます。

 劣悪な環境で生まれた場合には、母犬からの十分な愛情と養育を受けられるとは考えにくく、そのあと競市にかけられ流通し、ガラスケースに入れられた場合は、ほとんど受けることは不可能と思われます。もちろん、すべての個体が分離不安と思われる行動をするわけではないと思いますが、そのあたりは遺伝的な気質が大きく影響してくるのではないかと私は考えています。

もっと愛情を!

 なので、前出のケースでの私からのアドバイスは、

「まだ機は熟していない。もっともっとたくさん愛情を注いで、ベーシックトラストを形成してください」

 というものでした。飼い主さんは、このアドバイスにとても納得、気に入ってくださり、幸いお仕事もご自宅でもできることもあり、少しずつチャレンジしてくださることを約束してくださいました。その幸せな二人の様子をFacebookで確認しながら見守らせていただいています。

分離不安の問題は心の問題

 成犬になってからのベーシックトラスト形成ですので、どのくらい時間がかかるかわかりませんが、命を迎える、ということはそれくらいの覚悟が必要なことだと私は思っています。これはある意味心の問題なので、「こうすればこうなります」という世界のことではないこと。「オスワリ」や「フセ」「マテ」、「吠えないでこうして欲しい」と教えることより何倍も難しい問題です。安易に考えてはダメな問題で、こうして文字の情報で解決できる、と思い込まない方がいい、とても難しい問題かと思うのです。

 もちろん、分離不安と思われる行動には、他の原因も考えられます。たとえば、留守中に怖いことが起きた場合などです。私がうかがったお客様のケースでは、警報機が誤作動して警備員が部屋に入ってきた、ということがありました。飼い主の留守中に、制服の警備員が入ってきたら、それはそれは超怖いと思われます。それを学習する可能性はあります。

飼い主の心身の健康

 分離不安の行動に対してどう対処したらいいのか 私の経験から感じることを書きます。まず、精神的に飼い主さん自身が健康的に自立していることは前提です。飼い主さんが神経症など患っている場合には注意、配慮が必要です。動物と向き合う場合、飼い主さんの心の安定は重要なファクターになりますので、日頃から心の安定を心がけることは、人にも犬にも、他の動物にとってもとても大切なことかと思います。つまり、飼い主さんご自身のケアも必要です。できるかぎりハッピーでいられるように、愛犬のためにも努めるようにしましょう。

 そうした飼い主さんの状態を条件とした場合 

・べったりしすぎはダメ
・過剰にほめてはダメ
・「行ってきます」は言ってはいけない
・帰宅しても喜んではいけない 

 というアドバイスもあるようですが、私はあまり気にしないで、ラブラブもOK、たくさんほめてもOK、「行ってきます」も言っていいです(ただし大げさな悲しみの表現はNG)帰宅したら喜んでいいです、と申し上げたいです。

ベーシックトラストが形成されている犬を迎えよう

 ベーシックトラスト、基本的信頼という原因はとても重要かと思われますので、早い時期に親兄弟から話して流通させるペットショップなどから買ってきた場合、この分離不安の症状が過度に出てしまう可能性は低くないかもしれないことを頭に入れておくといいかもしれません。

人間の子ども場合の対処方法

 参考までに、人間の分離不安障害における対処法で、犬にも共通して言えることを抜粋いたします。 

・一般に、親たちが子供の不安を理解して、温かく受け止める対応を根気よく続けるうちに、これらの症状は消失していくことが少なくありません 

・もともと、分離不安の問題は親子関係の相互作用で形成されるものなので、親の心の安定を確保し、家族内の人間関係の調整を図ることが対応のポイントになります 

:出典「六訂 家庭医学大全科」株式会社法研発行

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Doggy Labo 代表 ナカニシ